[電子書籍コミック] ジャパゾンは論外だけど、Amazonも?

 なにやら、紀伊國屋書店や楽天、ソニー、日販、トーハン等が集まって、電子書籍をリアル店舗で売るという実証実験をはじめるらしいですね。

書店で電子書籍販売へ 来春から13社、アマゾンに対抗

紀伊国屋書店など国内の書店や楽天、ソニーなどの電子書店、日販、トーハンなど取次業者の計13社が、書店での電子書籍販売に乗り出す。書店だけで買える人気作家の電子書籍を用意する構想もあり、業界で一人勝ちを続けるアマゾンに対抗できる連合体「ジャパゾン」を目指す。

13社はこのほど、「電子書籍販売推進コンソーシアム」を設立。紀伊国屋、三省堂、有隣堂、今井書店などの「リアル書店」で、電子書籍を販売する実証実験を来春に始める。

書店の店頭に電子書籍の作品カードを並べ、店頭で決済。購入した人は、その作品カードに書いてある番号をもとに電子書籍をダウンロードする仕組みだ。

 いまいち何がやりたいのか良く分からない、というのが一般的な反応かと思いますが、これは既存のリアル店舗を持った書店に配慮しつつ、ゆくゆくは端末を含めた電子書籍流通の基盤となるシステム作りを推進する為の集まりであるらしいです。後述しますが、個人的には是非そうであって欲しいと願います。でも多分、途中で空中分解して無かったことになる可能性が高い気もしますけど。

 で、ネットでは否定的な反応が多いようです。

 書店の店先でカードを買って、そこに書いてある番号を元にダウンロード、しかも、人気の書籍はネットに先行して店頭でのみ販売することによって差別化を図る、とかいうやり方は、私も「無いわー」と心底思います。

 日本の出版業界は、いい加減に「できることをやらないでいる」ことでの差別化を、止めたらどうですかね。消費者もバカじゃないので、とっくに気付いてウンザリしています。ウンザリした人から、黙ってひっそり買わなくなっていくので、電子化への移行自体は不可避の業界全体が先細っていくだけだと思うのですが。

 いまはおそらく大変に重要な過渡期にあると思われ、だからこそ、ここで思い切った手を打つ必要があると思うのです(詳しくは後述します)。業界全体としては、どうせ無理だろうなーと思うんですが、出版社単体だと分かりません。ここで思い切った転換のはかれた出版社だけが、将来的に生き残っていくように思われます。

 とまれ、せっかく業界を横断するような連携が図れるかも知れないのに、引用にあるような「リアル書店で電子書籍を買えるようにする」みたいな中途半端な手しか打てないようであれば、Amazonに押されてしまうのは当たり前のことです。

 とはいえ、Amazonもサービス単体として見た場合、言うほど良いでしょうか?

冒頭に注釈という名の言い訳を追記:
 一説によると、この事業はデジタルデバイスに不慣れな層へ向けたものであるそうです。彼らに電子書籍への導入を提供することが目的の一端であることは、誰であれこの話を耳にした時から分かることですが、だとしてもなるほどと首肯する気分には、あまりなれません。

 PCがメインだった一、ニ昔前とは異なり、最近のタブレット等の端末は操作の敷居が驚くほど低くなっており、それすら「頭ごなしに否定して触ろうとしない」層が、紙の本の代替として電子書籍を選ぶケースは、そもそも然程多くないと思われます(彼らはむしろ、「選ばない理由」を一生懸命探すでしょう)。

 よしんば、店頭販売を導入として電子書籍にはじめて触れたという層がそれなりに出てきたとしても、その「ふるいにかけられた」層の大部分は、少し触っていれば「ネットのストアで電子書籍を買える程度には操作に慣れる」と思われ、その後も継続して「電子書籍を本屋の店頭で買い続ける」とは考え難いです。

 要するに、実際に店頭で電子書籍を買う層というのは、絞り込まれてる上に物凄く薄いんじゃないのというか(だって、少し操作になれたら、わざわざ書店を訪れてレジまでカードを持っていかなくても、いつでもどこでも手元のスマホやタブレットで買えるんですよ?)、果たしてこの事業にかけたコストに見合う成果を導き出せるかどうかは疑問視せざるを得ません。

 まぁ、でも、この記事にも元々書いていますが、やること自体は構わないと思うのです。人々に電子書籍を意識付けることが目的であるならば、やること自体に意義はあるでしょうし、やってみなきゃ分からないこともあるでしょうし、今後ますます電子書籍に吸われていくであろう書店さんの売上の問題をどうにかしなきゃいけないのも確かですし。

 なので、記事を書いた当時に私が腹を立てていたのはそこではなく、ひとえに「リアル店舗での人気書籍の優先(先行)販売」という部分です。

 いや、ね、正直なところ、元から理屈は分からないでもないんです。上に書いたように、店頭で電子書籍を買うなんていうケース、あんまり考えられない訳ですから。なんか手を打たない限りは。

 じゃあ、それを売ろうとしたら、どうすればいいか。購入特典をつけるのもいいでしょう。割り引き販売をするのもいいでしょう。ポイントを余計につけるのもいいでしょう。

 人気の書籍をネットストアに先行して販売開始するのも、その方法のひとつでしかありません。

 というのは分かるんですが、それって「売る側の理屈」だけじゃないですか。正直、うんざりするんですよね。色々不備があったり、いつも後回しのお味噌扱いされながらも、既に電子書籍を生活の一部として普通に利用してるユーザーを、あんまりないがしろにすんなよ、と思う訳です。

 ユーザーの利便性を一方的に犠牲にしてまで、売る側の理屈ばっかり押し付けんなよ、と。「こっちも色々考えてんだよ、嫌なら買うな」とおっしゃるのであれば、じゃあ買いません、と。

 まーつまり、頭おかしいんじゃないのというくらい大量に電子書籍を日々買い続けている自分を馬鹿にされたような気分になって腹を立てたというだけの記事ですね、これ。我ながら小っさいなー、私。

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Amazonの圧倒的な強みとは

 このブログでは、電子書籍と言えばコミックのことばかり書いているので、ここでもコミックを利用する場合の視点から自分なりの考えを述べていきたいと思います(例によって、誰にも聞かれてませんけれども)。紙の本と同じような比率であれば、電子書籍でも売上の大体半分はコミックの筈なので、そのような視点があっても許されるでしょう。

 電子の場合は、半分どころか売上の大半はコミックという調査結果もありますが、資料としては若干古く、いまの電子書籍とは別物だったガラケー時代の影響が色濃く残っていた頃の調査であり、最近の傾向が反映されているとは言い難いので、ここでは採用しません(2012年の資料が、2014年には古くて使えないんですから、ここ最近における電子書籍界隈の変化の激しさが伺えますね)。

 とはいえ、文芸書などコミック以外のジャンルは、まだまだ電子化が遅れていることもあり、いまでも電子書籍全体の売上に占めるコミックの割合が多いのは確かです。今後、他ジャンルにおいても話題作や新刊が紙と同様に入手し易い環境が整ってくれば、比率は自然と下がっていくと思われますが、コミックは電子との相性が良いため、下がったとしても今後もだいたい半分くらいはキープしていくのではないでしょうか。

 一方で、電子でなく紙に関しては、コミックが半分は言い過ぎましたね。発行部数とごっちゃになっていたようです。売上だと、コミックの単行本が占める割合は、書籍全体から雑誌を除いた場合で三割くらいかと(注:リンク先は、雑誌込みでの比率です)。コミックは単価が安いので、発行部数なら比率はもっと高くなると思われます。

 さて、上のリンク先では利用者からみたAmazonの利点として、品揃えや検索のし易さ、どの端末でも読める利便性やセールが行われていることが挙げられています。

 それはもちろんそうなのでしょうが、ことコミック的な観点に限れば、どれもAmazonが飛び抜けて優秀な訳ではありません。

 将来的には分かりませんが(理由は後述します)現状においては若干の差異こそあるものの、コミックの品揃えは主だったストアでは大差なく、対応端末もいまのところiOSとAndroid(ついでにPC)に対応していれば事実上ほぼ不足は無く、且つそれを提供していないストアはほとんどありません。

 また、セール等に関しては、前の記事で調査に使ったコミックが各ストアで横並びに無料になっていたことからも分かるように、出版社主導の場合はストアによる差はほぼ無く、ストア自身のキャンペーンやポイント付与等の施策は、皮肉なことにおそらくAmazonの存在によって、むしろ日本のストアの方が積極的に映ります。

 また、Amazonは検索がし易いって言う人をよく見かけるんですが、果たして言うほどでしょうか?いや、これについてはもちろん比べられないほど優秀なんですけれども、一般的なユーザーがカジュアルに使う分には、明らかなメリットと言えるほど他のストアの検索機能と大差がつくとは思えません。

 Amazonの強みというのは、確かに圧倒的に存在するんですが、でも、そういうところじゃないと思うんですよ。

 何が強みかって言ったら、それはもちろんアレですよ。

「ネット」+「本」=「Amazon」

 この図式が、人々の頭の中に出来上がってしまっていることこそが、なによりの強みです。これこそが、90年代からネットで本を売り続けてきたAmazonの強みに他なりません。

 この図式が頭の中にあるが故に、ライトなユーザーが「ネット」で電子「書籍」を探す時は、まず真っ先に「Amazon」が思い浮かび、「Amazon」+「電子書籍」=「Kindle」でKindleに辿り着き易いのは当たり前の話です。特にこだわりが無い限り、ユーザーはあれこれ調べたり試したりしたくないものです。

 なので、今回の「電子書籍販売推進コンソーシアム」を「ジャパゾン」などと称するのは、最悪に愚の骨頂です。図らずも「ジャパゾン」という呼称が証明しているように、「ネット」+「本」=「Amazon」という人々の共通認識を、さらに補強する行為でしか......と思ったんですが、これ、よく見たら、大元の記事の出処である朝日新聞が、勝手に「ジャパゾン」と呼んでるだけですかね。だとしたら「電子書籍販売推進コンソーシアム」は、なんか文句言っておいた方がいいと思います。だって、Amazonに対抗することが目的の一端だとしたら、これじゃ初っ端から敵に塩を送ってるようなもんじゃないですか(笑)

 Amazonの強みは、他にもまだまだあります。ひとつは、実体のある商品を含めてネットで可能なほとんど全ての買い物を1箇所で行えるということです。価格比較マニアでも無い限り、あちこちのストアをいちいち使い分けるのは、一般的なユーザーにとってはストレスになるものです。逆に、全ての買い物を1箇所で済ませることができるのは非常に気が楽で快適です。
 これは、電子書籍の専門店では絶対に出せないメリットです。乗合馬車の楽天でも難しいでしょう。いまや世界でも類を見ない規模を誇るショッピングサイトのAmazonのみが最大化できるメリットと言えます。

 そして、その巨大な規模が、別のメリットをも創出します。それは「倒産等によってサービスが停止し、購入した電子書籍が読めなくなるリスクが少ない」というメリットです。

 実体の無い電子書籍の場合、サービス提供会社の都合によって購入した電子書籍が読めなくなるリスクは、常に一定の確率で存在します。その理由は何も倒産に限ったことではなく、「kobo」に移行する為に楽天の電子書籍ストア「Raboo」が終了し、しかもなんと購入情報の引き継ぎが行われなかった為に(もちろん楽天側の言い分はあるだろうけど、「楽天」のサービスの一貫として電子書籍を買ったユーザーには関係無いよね)、電子書籍全体の信用失墜をなんとか防ごうとしたeBookJapanが救済策を提案した2012年の事件は、まだ記憶に新しいです。

 まぁ、楽天はどの面下げて「電子書籍販売推進コンソーシアム」に参加してんだと思うところも無いではありませんが、それは置いておいて、球団まで持っている大きな会社だと思われている楽天ですら(だからこそ、とも言う)この有り様なのですから、より基盤の小さいストアなんて、いつサービを辞めてしまうか分かったものでなく、怖くてとてもメインのストアとしては使えないと考える人がいておかしくありません。

 ですが、Amazonは楽天とは事情が異なります。そもそもが「本のネット通販」からはじまった会社なのです。電子書籍サービスであるKindleを終了するなど、自らの成り立ちを否定するようなものですから、余程のことがない限り打ち切ることは無いでしょう。さらに、あの規模の会社が倒産することなどほとんど考えられないというか、Amazonが潰れる可能性よりも日本の電子書籍ストアが潰れる可能性の方がよっぽど高いと「考える人が多い」のは当然です。

 つまり、いつ読めなくなるか分からないストアで買うより、「Amazonで買った方が安心」となる訳です。これが、Amazonの規模がもたらす強みです。

 正直なところ、「電子書籍販売推進コンソーシアム」は、人気書籍のリアル店舗での優先販売だとか、自分たちの都合最優先の読者をナメ切って馬鹿にしたアホなことをしている場合ではありません。いや、書店さんの問題も確かにどうにかしなきゃいけないので試みるのはいいんですが、せっかく業界を横断的に集合したのであれば、この問題をこそ最優先で解決しようと模索するべきだと思います。

 具体的には、購入した本が読めなくなるリスクを可能な限り低減するシステムを、業界全体で構築するべきです。購入した本の紐付けを購入した店舗に関わらずクラウド上でデータ化して、とあるストアが潰れたとしても、他のストアからダウンロードして読めるようにしなくては、ユーザーは安心して電子書籍を買うことが出来ません。この点に関しては、最近連携先を増やしている角川書店が頑張っていると思います。このように、出版社個別に視点を移せばなんとかしようとしている場合もあるのですが、せっかくなのでこの機会に業界全体として考えるべきでしょう。

 また、どうせ集うのであれば、「ネット」+「本」=「Amazon」という図式を少しでも崩す為に、「電子書籍の情報は、とりあえずここを見ておけば間違いがない」というポータル的なサイトを構築して大々的に広めた方が良いのではないでしょうか。あちこちに情報が散らばっていて、カジュアルなユーザーにとってはどこを見ればいいか分からない、本を読みたい気分になっても、ネット上ではどこを見れば、町で本屋さんに立ち寄るように気軽に情報に辿り着けるのかよく分からないというのも、現状における問題点のひとつだと思います。そこから個別のストアへの誘導は、ここではちょっと省きますが、Amazon一極になってしまえば、この役割すらAmazonが担ってしまうことになり、「電子書籍はAmazonさえ見ておけば間違いないや」と多くの人々が思うようになってしまったら、それはすなわち市場をコントロールされてしまう訳で、完全にそうなる前にどうにかした方がいいんじゃないですかね。もう既に、そうなりつつある訳ですし。少しは慌てた方がよろしいかと思います。

 それから、リアル書店の店頭で電子書籍を販売とか意味不明なことをしていないで、逆にリアル書店でリアルの本を買ったら電子書籍もダウンロードできる、くらいの思い切ったサービスを提供するくらいでなくては、Amazonには対抗できないと思います。参加したリアル書店の販売情報を利用するなり、規格はなんでもいいので本にタグを埋め込むなり、本気でやろうと思えばいくらでもできる筈です(新古書店まで包括的に考慮すると、タグ管理の方が良いでしょうか)。

 というか、Amazonは遠からず、これ、やってきますよ。だって、もう音楽ではやってるんですもん。

追記:

 すみません、私が知らなかっただけで、既に話が出てました。

 また、日本でも雑誌ですが似たような試みがあるようです。

 このように個別に見れば、日本でも色々やってるんですけどね。

追記:(2014/3/21)

 来ましたねー。BookLive!は頑張るなぁ。数年後には当たり前になってるといいですね。

追記:(2014/7/2)

 ようやく、そのものズバリに近いサービスが広範に開始されそう。

 BookLive!は、いろんなことを精力的に押し進めていてスゴいなぁ。

追記:(2014/9/14)

 冊子体と電子書籍をセットにしたハイブリッドモデルで販売、という試みも。

追記:(2014/12/10)

 こんなのも。

 どうせなら、ロハにして欲しいですけどね~。

 ところで、この記事を書いてからちょうど1年ほどが経ちましたが、いまになって落ち着いて振り返るに、この時の私はいったい何をこんなに怒っていたんだろうか、と思わないでもありません(笑)

 当ブログの記事における的外れな内容が関係諸氏を苛つかせてしまうことも多いかと思いますが、ヘタに内情を知ってしまうと「そうだよねー、仕方ないよねー」と自縛してしまうタイプだと自分で分かっているので、電子書籍に関しては、あえて単なるいち消費者の立場を保ちつつ、アレコレ適当な野次を飛ばしていきたいと考えております。ご了承くださいませ。

 この先10年のことを考えたら、そこまでやってようやくスタートラインじゃないでしょうか。この程度のことはAmazonに先んじてやるくらいでなくては、横に並ぶことすら難しいというか、差はどんどん開く一方になるかも知れません。

 2000年代のともすれば停滞にも思える下拵えの期間を経て、2010年代に入ってからの急激なインフラやシステムの進化に伴い、いまこの辺りの理屈が物凄い勢いで変化している最中なので、乗り遅れたら挽回は不可能なほどの致命傷になり兼ねません。その上、Amazonはその先頭集団を走り続けているのです。

「できることをやらないでいる」ような余裕は、もうとっくにどこにも無いと思うのですが。

 このような「いまやらないと!」みたいな煽り文句を謳うのは、山師の常套手段にしか思えず本来とても嫌いなのですが、電子書籍とそれを巡る日本の業界事情はずっと前からのんびりし過ぎというか、悪い意味で保守的になってしまっているというか、IT企業であるAmazonとはスピード感が違いすぎて、端から見ているとハラハラします。

 いや、元々そんなに変化が求められる業界ではなかったと思うので、ある意味仕方ないとは思うのですが、業界全体ではなく出版社個別で見た場合、敏感に反応している方々も沢山いらっしゃるようなので、大いに期待したいところです。

 えー、話を戻しまして、Amazonの提供できるメリットと言えば、他にもシステム面での強みがあげられます。例えば、Amazonは外部に対してAPIを提供していますが、あれと同レベルのものを日本の電子書籍ストアが個別に用意できるかと言うと、ちょっと無理でしょう。楽天のAPIですら勝負になりません。まぁ、AmazonはAWSとか提供しちゃうほどの企業ですからね。

 APIが充実しているということは、取りも直さずバズり(られ)やすいということでもありまして、ネット上のあらゆる場所にお手軽に貼り付けられた商品群が、さらにAmazonのシェアを転がるように拡大し続けていくという寸法です。ここら辺は、リスクマネジメントに熱心過ぎる日本企業が、特に弱い部分かも知れません。

 さらにさらに、Amazonの素晴らしいところは、比較的お手軽な自主出版の方法まで提案しているところです。

 これも、ユーザーの少ないプラットフォームでは魅力半減ですし、世界中で展開しているAmazonの規模があったればこそという感じですよね。

 実際のところ、日本のストアでも自費出版の方法を提供しているところはいくつかあるのですが、ユーザー数でAmazonに勝てるところは、残念ながらないでしょう。最近は複数のストアに対して出版できるようなサービスもちらほら見かけますが、その場合でも数を捌けるストアの優先順位がどうしても高くなることは想像に難くありません。

 日本の出版業界は、もっとこれを恐れるべきです。「できることをやらずに」ユーザーの利便性を犠牲にしてのんきに似非差別化をはかってる間に、万が一にもこの市場が育ってしまえば、つまり作家や編集者が活発にAmazonと直接やり取りをはじめるようになったら、どうするんでしょうね。お互いに義理があるから大丈夫とか、そろそろ言ってられないと思うんですが。だって、これから出てくる作家や編集者には、そんなの関係ないですからね。この市場が成熟したら、ゆくゆくは作者、編集者と読者の距離が縮まりそうで(つまり、作り手の取り分が増えると思うので)、個人的には嬉しいから別に育ってもらっていいんですが、Amazonにそれをやられると一極集中が過ぎるのが問題です。売れる本が彼らのさじ加減で決まるようになってしまうようだと、それはちょっと具合が良くないですよね。

 少し話は変わりますが、ここ数年の内に、まともにコンテンツを配信するネット専門の出版社がもっと増えてもおかしくないと思います。で、もし自分がそれをやるとしたら、外から業界をざっと見渡して、いまならやっぱり最初にAmazonに話を持っていくかな、と思いますもん。規模の割りには話が早そうだし。

 ともあれ、Amazonは90年代から赤字覚悟で拡大方針と莫大な投資と続けて、現在の地位を築き上げました。ちょっとした業界の寄り合いを作ったくらいでは、とてもそれには対抗できないと思います。これまでの延長線上でリスクの無い範囲で物事を進めるのではなく、時代を先取りするくらいの思い切ったことをしない限り、今後もAmazonの後塵を拝するばかりではないでしょうか。

コミック用の電子書籍ストアとしてのAmazonはどうだろうか

 このように、私の考えるところではAmazonが提供できるメリットって、その巨大な規模によるところが大きい、言わばスケールメリットだと思うんですけど(ちょっと意味が違うかもしれませんが)、果たして電子書籍、それもコミックをメインした場合のサービスだけを切り出してユーザー目線から見た場合は、どうでしょうか。

 月に5冊も買えば、「今月はいっぱい買っちゃったなー」と感じるライトなユーザーであれば、AmazonのKindleストアはなんら過不足ないでしょう。

 ですが、このブログにこれまで書いてきた内容は、月に数十冊は平気で買ってしまうようなヘビーなユーザーを想定しています。そのようなユーザーから見た場合の電子書籍ストアとしては、Amazonはせいぜい中の下じゃないでしょうか。

 正直、月に数十冊の単位でコミックをオーダーするユーザーが、Kindleストアを優先して使う理由が見当たりません。

 上にも書いたように、品揃えやストアの機能、サポート端末やセール等は、少なくともコミックの場合はAmazon独自のメリットにはなっていません。

 ですが、デメリットならばいくつもあげられます。

 コミックを主体に見た場合、アプリ内の本棚で、本が「シリーズ」単位で扱えないのは、かなり致命的です。それほど本を多く持っていないユーザーならば問題ないのですが、蔵書が数百、数千という単位になってくると、コミックの場合は本が本棚で「シリーズ」単位にまとまっていないと話になりません。例えば、1~50巻まで刊行されているシリーズ物を所有している場合、本棚画面(ライブラリの一覧画面ですね)ではその1シリーズの表紙のサムネイルを並べるだけで数画面分にも渡ってしまいますが、シリーズ単位で管理されていればルートのリストでは1つのサムネイルとして表示されるだけで済みます。「前に買ったあの本読み返そー」と思った時に、延々と下へのスワイプを強いられることに毎回耐えられるほど我慢強くありませんので、個人的にメインで使っているのは「シリーズ」単位での管理を基本としたストアアプリばかりです(ちなみに「自分で整理」というのは論外です。整理という作業それ自体が好きな人を除き、蔵書が数百、数千という単位になると、いちいち細かく整理してられません。もしくは、毎回検索することを前提としたデザインも、マジ勘弁)。

 これは、意外と日本のストアアプリでも対応していなかったりするので、気をつけて欲しいところです。細かい優位性ですが、Amazonはシリーズ情報を(いまのところは)歯欠けでしか持っていないかも知れないので、個人で数十万円をコミックに使うようなユーザーからの売上を捨てているのでない限りは対応しておいた方がいいんじゃないでしょうか(そういうユーザー、結構いると思います)。

 それから、この記事でも書いたように、最近のAmazon Kindleアプリはダウンロードが他のストアアプリと比べて遅過ぎます。おそらく一時的なことで、すぐに改善されるとは思いますが(と思ってましたが、半年経ってもほとんど改善してないので、個人的にはやっぱり使うの無理です)、使う気にならないので、これも割りと致命的です。

 また、キャンペーンやポイント還元的な売り方は、Amazonの脅威を感じているからだと思いますが、逆に日本のストアの方が活発だと思います。Kindleストアでもやってはいるんですが、出版社主導の横並びセールを除外すると、独自のセールも無くはありませんが、コミックに関しては他のストアと比べて特筆すべきほどではありません。

 ポイントサービスで言えば、例えばBookLiveは毎月定期的に10,000円分のポイントを購入すると2,000円分のボーナスポイントが支給されます(GALAPAGOS等でも同じようなサービスが提供されていますが、20,000円なら4,000円分ですが、10,000円だと1,500円分です)。大抵のストアのポイントには有効期限が設定されている為、あまり利用しないユーザーにとっては失効により損をする危険がありますのでオススメしませんが、「毎月1万円くらいは余裕で電子書籍に使う」という人種にとって、これは大きなメリットなのです。
 とにかく買う数が多いので、ただでさえお金が掛かりますからね。期間限定のキャンペーンではなく、毎月必ず2,000円分は余計に買える、もしくは常に16.6%割引で買っているのと同じことになるので非常に助かるのですが、Amazonがこのようなサービスを提供するのは、規模が大きいだけに他のジャンルとの兼ね合いもあって難しいでしょう。

 それから、この記事で書いたように、「続巻を開く」機能もKindleアプリには追加されないと思いますし(細かすぎて、どうでもいいですか)。

 あと、Kindleストアは何故かカートに対応しておらず、1冊づつ精算しなきゃいけないのも地味に面倒です。そんなに沢山レシートメールいらないですから。

 アプリやストアの使い勝手から言っても、ポイントやキャンペーン周りのサービスから言っても、Amazonが大好きでもない限り、大量に電子書籍のコミックを購入するユーザーがAmazonを優先的に利用する理由は、いまのところ私には見つけられません(Amazonの規模だと、カジュアルユーザーが増えていけばいいので、別に向こうも気にしないでしょうが)。将来的には、独自出版がより活発になり、Amazonでしか買えない面白いコンテンツが増えていけば、利用する機会も増えていくのだろうと思いますが。

 あー、でも、立ち読みができる本が多いのは、Amazonの利点ですかねー。他のストアでは立ち読み不可になってる場合でも、Amazonだと立ち読みできることが多いので、そういう用途では良く使います。というか、個人的なことを言えば、Amazonでも200冊弱くらいは電子書籍を買ってるので、メインではないというだけで、現状でもそれなりには利用してるんですけどね。

追記:
 それから、同じ電子書籍の価格を各ストアで比較した場合、Amazonが他よりも若干安い場合があります。かなり例外的かつ他のストアのポイント分で相殺されてしまう程度ですが、これも利点と言えますね。

 ただ、まぁ、外国企業なので、おそらく消費税が課税されない分が安いだけなんじゃないかと思われ、それはそれでどうなんだろうという気がしないでもありませんが。

さらに追記:(2014/7/2)
 2015年から、国外からの配信にも消費税が課税されるようになるかも知れません。

 公正な競争の為にはこれでいいと思いますが、いち消費者としては若干キビしい......ような気がしましたが、いまの私のメインストアは BookLive! なので、あんまり関係ありませんでした(笑)

追記:(2014/09/30)
 こちらの記事にも追記しましたが、そのお得さからイチ推しだった BookLive! が、どうやら独自ポイントを T ポイントに移行するらしく、さらには月額ボーナスもやめてしまうらしいです。

 マジですか。T ポイント好きじゃないんですけど。

 詳しくは(というか愚痴は)こちらの記事に譲りますが、日本のストアがどこも割引を諦めて横並びとなり特徴を失い、結局のところ Amazon のひとり勝ちになる未来が透けて見えるのが嫌だ。

結論としては

 なんだかほぼ主題の定まらない与太話なので、結論も何もないのですが、なんというかAmazonが「頑張って」いるのは、使い勝手のような面よりも、泳ぐのをやめると死んでしまう魚のように規模を拡大し続けているところだと思います。

 コミック用の電子書籍ストア単体として見た場合はそれほど大したことないので、日本のストアには頑張って欲しいですし、付け入る隙もまだ十分に残されていると思います。

 でも、日本の業界はもうちょっと切羽詰まった危機感を覚えた方がいいと思います。いまの感じだと、また確実にAmazonに対して後手後手になる未来しか見えません。

 そろそろ「できることをやらないでいる」のはやめて、「自分達だからできること」を武器に先手を打ってみるのも良いのではないでしょうか。

 あと、今回の「リアル書店での電子書籍販売」の件は、書店に配慮しなくちゃならない立場も分かりますが、その代わりに読者をナメ過ぎ。書店が苦しいからって、電子書籍の読者は馬鹿にしていいんですか?

 店頭だけでしか売らない電子書籍とか、店頭でのみ電子書籍を先行販売とかホントにやりはじめたら、失望のあまりAmazonにメイン移すかも知れません。てゆうか、何年かは本を買わない生活してたことだし、馬鹿馬鹿しいから、すっぱり買うのやめようかな。

 ああ、品が無くてすみません。でも、この電子書籍ユーザー不在のやり方には、かなりムカついているのです。そりゃ、思ったより普及しなくて当たり前だよね。マッチポンプじゃん、馬鹿みたい。

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