さてさて、あっという間に一年が経ち、早くも年が明けて 2016 年がやってきてしまいました。
あけましておめでとうございます。今年もどうぞ、よろしくお願いします。
ということで、年末年始に恒例の(ただし、誰もご存じない)「今年読んだマンガ」シリーズです。
いちおう、おととし、去年と続けてきた、当ブログでは数少ない続き物ですからね。
今年も惰性で漫然と続けていこうかなぁと、薄らぼんやりと考えてはいたのですが。
うーん、なんと申しましょうか。
2015 年は、ほとんど電子書籍関連の記事を書かなかったことからも明らかであるように、前年までとは、ちょいとばかり様子が違っておりまして。
なにやら、私自身の電子書籍に対するテンションが、「そういう気分じゃないんだよなー」みたいな感じになってしまったといいますか(どんな)。
そこで、2015 年版は趣旨を変えまして、電子書籍に関して考えていたアレコレを、思いつくまま気の向くままに、雑然と吐き出してみようかと思います。
そんな具合なので、果たして自分以外が読んで面白い内容になるものか、いまひとつ自信が持てません。
「――やっぱ、いい。別に、なんでもない」
「なんでもないって顔してないけど。何か、言いたいことがあるんじゃないの?」
「ホントに、なんでも無いから。だって、言ったら愚痴になっちゃう」
「なんだ、そんなこと。いいよ、愚痴くらい。いくらでも付き合うよ」
「嘘。知ってるんだから。私なんかに、これっぽっちも興味無いクセに、簡単にそういうこと言わないでよ」
「......本当に、簡単に言ってると思ってる?」
「えっ?」
「あのさ、興味無かったら、いま、こうして喋ってないと思うんだけど」
「......(トゥンク)」
みたいに、思わず惚れてしまいかねないイケメンイケジョ方々だけでも、よろしければお付き合いください。
年明け早々、わたしゃ一体何を書いておるのか。
読み込み中です。少々お待ち下さい
2015年の購入冊数
はい、ということでね。
まるっと気分を切り替えまして、まずは恒例の 2015 年における電子書籍の購入冊数から発表していきましょう。
なんで毎年、こんなことを申告しておるのかと言いますと、「買いもせずになんだかんだ言ってる訳じゃなくて、ある程度電子書籍を購入した上でグダグダ言ってるんですよ」というエクスキューズの意味合いを、いちおう含ませています。
まぁ、自分で言ってるだけで証拠はありませんから、意味無いじゃんと指摘されてしまえばそれまでなんですが。
後ほど少し触れますが、ストアを跨いだ電子書籍の蔵書管理って、ホントに困っちゃいますよね。せっかくコンピューター使ってるのに、提供側の都合で管理できない理不尽さを覚えずにいられません
それでは、さっくりと。
2015 年の購入冊数は、約 800 冊でした。
1600 冊ほど買っていた 2014 年と比べると、おおよそ半分くらいに収めることができた訳です。
2015年は年初から、ずっと購入冊数を減らすことを念頭に置いていましたので、これは本当に大成功だったと誇らせていただいてもよろしいのではないでしょうか。
イヤァ、こうして実際に数えてみると、嗚呼、自分は確かに己を律することが出来たのだナァ、と感慨深い気持ちになりますネ(誰)。
とはいえ、思うように購入冊数を減らすことが出来た理由は、単に「買うのを我慢したから」というだけではありません。
冒頭で匂わせたように、電子書籍に対する私自身のテンションが「だだ下がり」した、という心境の変化を、理由のひとつとしてあげておくべきでしょう。
ここで理由めいたアレコレを、グダグダと書き連ねていたのですが、読み返したら恐ろしくツマらなかったので、全て削除しました。
代わりに一言でいうと、まぁ、要するに、出版業界の電子書籍に対する取り組み方に、勝手にガッカリしちゃったんですね。
いえあの、紙の本の発売からさほど間をおかず電子書籍を発売し(ただし、基本的には未だに同時ではない)、さらに雑誌自体の購入も可能にした集英社の週刊少年ジャンプ然り、未開拓地を自ら切り開こうとする試みはあちこちで散見されるとは思うのですが、業界全体をユーザー視点で見回した時に、正直「やる気ねー」以外の感想が出てこないというか。
こっち(読み手)側だけ、一方的に盛り上がってても仕方ねーなー、コレ、みたいな。
それでも、コミックは小説等の他ジャンルと比べれば、圧倒的に環境が整っているという事実が、なんともまた。
電子書籍って IT の一部と言って良いと思うんですけど、皆が思っていた以上に、出版業界と IT って相性が悪かったのかも知れません。
最後の方でちらっと触れる予定ですが、そも電子出版に関しては、必ずしも既存の出版社が引き続き担当すべき理由は特に無かったなぁ、しまったなー、と最近では思うようになったりもしています。
まぁ、普段触れる機会の多い IT 業界の異様なスピード感に毒されているだけかも知れませんが、だって、根本のところでロクに話が進まないんだもん。
電子出版の問題点
電子書籍に関して、いくつか存在する最大の問題点のひとつに「見せ方」というものがあると考えています。
人々の生活スタイルの変化に伴い、出版物の電子化への移行は不可避ですから(将来的には、紙の本は好事家向けの贅沢品になると思う)、電子書籍という媒体の潜在的なユーザーは、自ずと増加していく筈だとする考え方に、異を唱える向きは少ないでしょう。
ただし、「潜在的」と表現したように、放っておいても皆が都合よく電子書籍を利用してくれる訳ではありません。
漫然と手をこまねいていては、他の娯楽にユーザーの空き時間を取られてしまうだけです。
そこで、電子書籍に触れる機会をほとんど持たない新規ユーザーを、いかにして取り込んでいくかという点がとても重要になる訳ですが、果たして現状、さほど興味の無いユーザーを呼び込めるような有効な施策が打てているでしょうか。
また、そのようなユーザーが、いざ電子書籍に触れる段になって、本屋さんにふらっと立ち寄るように、気軽に本の情報にアクセスできるようになっているでしょうか。
私には、とてもそうは思えません。
版元やストアのそれぞれが、てんで勝手に発信しているだけで、とっ散らかってまとまりがないように感じられます。
そして、Web 上に散逸した情報を、わざわざ拾い上げて追いかけてくれるのは、熱心なコアユーザーだけであり、大した興味を持たない潜在的なユーザーは、断片的な情報を自主的に辿ったりはしてくれません。
情報へのアクセスに手間がかかればかかるほど、もっと容易に辿り着ける他の魅力的な娯楽に、ユーザーの興味は簡単に移ろってしまうでしょう。
Pinga という、新しい見せ方
さて、そんな中。
2015 年の後半に、なかなか興味深いサービスが登場しました。
ネット上のあちこちで、日々とりとめもなく公開されている(主に無料の)マンガの更新情報を、一括してチェックできる Pinga というサービスです。
ネット上に点在するサービスの新着情報を、自分でいちいち個別にチェックをするのは、本当に面倒臭いですからね。
というか、面倒臭すぎて、いつしかアクセスすること自体を忘れてしまう場合が大半ではないでしょうか。
もちろん、Pinga もネット上で公開されている全てのマンガの更新情報を網羅できている訳ではありませんが、「とりあえず、ここを見ておけば、忘れていても教えてくれる」というお手軽さへの第一歩と言えると思います。
それぞれが独立していたせいでコンテンツのポテンシャルを引き出しきれていなかった情報を、逆にネットを利用しているからこその利点で関連付け、取りまとめたからこそ可能な「見せ方」で価値を高める試みであり、受け手と送り手の双方にメリットのある、期待のサービスです。
このようなサービスは、これまでも皆無ではありませんでしたが、提供側の都合で仕方なく停止してしまうケースの多い小規模な団体や個人によるものが多かった印象があります。
名立たる企業が参加している(らしい)横断的なサービスは、他にちょっと思い付きません(不勉強にも、他にあったら申し訳ないです)。
バックボーンがしっかりしていることは、様々な交渉事でも有利に働くでしょう。
斯様に、興味深いサービスではあるのですが......
Pinga に関する個人的な感想
ここから、極めて個人的な感想になりますが、正直いまのところ、Pinga は「この先の2~3年を乗り切れるか怪しい」と思っています(ヒドい)。
だって、どうやってマネタイズするつもりなんですか、これ。
いやいや、そんなんちゃうんスよ、担当者の熱意で成り立ってるサービスでして、皆さんのお役に立てればそれでいいスよ、みたいに趣味的な運営は、これだけちゃんとした企業が参加していたらあり得ないでしょうし。
つまり、単なる金食い虫に終始してしまうようであれば、簡単に切られてしまいかねない訳でして、当座のところは単純な金銭的利益とは言わずとも、なんらかの成果を出す必要はあると思うのですが、いまのところ、外からはそれが全く見えません。
いや、もちろん応援しているからこそ、こんな心配をしている訳ですが。
それを免罪符にはしませんし、そして実際に運営している方々は、私なんぞには及びもつかない様々なあの手この手を粛々と進めていらっしゃると思うのですが、何も知らない外野から、無責任な野次をちょっとだけ飛ばさせてください。
Pinga にはスマホアプリが必要だ
まず、はじめに。
サービス開始時に、なにがなんでも死んでもスマホアプリ(最低限 iOS / Android 用)は用意するべきでした。
現状、このような「コンテンツにアクセスする為の動線としての情報」を確認する為のツールとして、常に持ち歩いて空いた時間に必ず手元にあるスマホほど適したデバイスは他にありません。
そして、上のような記事をわざわざ持ち出すまでもなく、自らのスマホの使い方を振り返れば容易く理解が及ぶように、現在のスマホ上の Web ブラウザは、「サービスを受ける為の総合プラットフォーム」ではなく、「欲しい情報を、ちょっと検索する為のツール」、もしくは「アプリが勝手に開いたから、仕方なくその情報を見る為のツール」でしかありません。
わざわざ Web サービスのトップページをブックマークして、定期的に Web ブラウザを起ち上げて、いちいち移動してくれるようなスマホユーザーは、一部のコアな人々だけです。
一般的なユーザーは、スマホのホーム画面に置かれたアイコンをタップして、すぐに情報にアクセスできることに慣れ切っており、そのホーム画面上のスペースすら、各サービスが鎬を削って必死に一等地(1枚目)を確保しようと熾烈な争いを既に何年も繰り広げてきているというのに、それ以上の手間を要求するサービスが広く利用される道理がありません。
さらに、ネイティブアプリのように新着情報を自動的にスマホの通知領域で教えてくれる訳でもなく、わざわざ自分からアクセスしに行かなくてはならないのも、いまの時代においては割りと致命的です(一部で Service Worker による Web Push 通知が話題になっていますが、注目しているのは提供側だけじゃないでしょうか)。
現代社会に生きるスマホユーザーの空きリソースは、それほど潤沢ではありません。
正直なところ、「思い出すきっかけ」が無いと、存在自体を「あっさり忘れられて」しまいます。
なので、ちょっとでも興味を持ってくれたユーザーのホーム画面の一角を、何かの拍子でもなんでも良いから確保できるように、是が非でもアプリは最初から用意すべきでした。
いや、このように基本的なことは、運営側にしてみれば、「ンなこた、言われなくても分かり切ってるに決まってるだろ! いい加減にしろ! でも、どうしようもねーんだよ!」というところでしょう。
そこから、おそらくかなり小規模な予算と人員で回しているのではなかろうかと察せられるのですが、仕方のないこととはいえ、せっかくサービス自体はとても面白いのに、興味を持ってくれたユーザーを取りこぼしてしまいかねないのは、本当にもったいないなぁ、と思わずにはいられません。
マネタイズの方法は
この手のサービスは、開始時にドカンと予算を使って宣伝をして、とにかくユーザーを増やすことが重要だと思います。
そして、スマホアプリは、その中でも特に大事なアクティブユーザーを繋ぎ止める為に必要な、最低限の準備に含まれるのではないでしょうか。
アクティブユーザーがある程度見込めるようになれば、マネタイズの目処も立とうというものです。
「ウチで新着チェックできるようにすれば、閲覧数が2桁は違いますよ、どわっはっは」
みたいな法螺が吹けるようにデータを出せるようになれば、例えば、個人サイトのマンガは無償で掲載するけれども(利用者の興味を繋ぎ止める為に、ある程度選別した上で、これはなるべく継続すべきです)、法人の場合は掲載料を取るような交渉もし易い筈です(最初からやってるかも)。
単純に Web 広告を打つよりも、潜在的なユーザーに余程リーチするというデータを提示できれば、営利企業は普通に広告費をこちらに回すでしょう。
また、ユーザーの興味を繋ぎ止めるという面からいえば、これは既にニュース記事という形である程度導入されていますが、「ユーザーがそこで時間を潰せるコンテンツ」を用意する手もあります。
私個人としては全然興味ありませんが、例えばランキングの導入や、ネット上の情報を利用した「いま話題のマンガ」の自動陳列、そして、上掲の記事を紐解くまでもなく、ユーザーのネット利用時間の大半はコミュニケーションに費やされていますから、新着紹介されているマンガに関して気軽に語り合うことのできるまとまった場の提供のような SNS 的な要素も、上手く回って人が集まればユーザーを呼び込む入り口となり得るでしょう(これをユーザーが手軽に利用する為にも、スマホアプリは欲しいところです)。
また、こちらも特集やピックアップという形で一部実装されていますが、精度の良いキュレーション的な要素や、その時の気分で選択できるジャンル分け(掲載数が増えれば増えるほど重要になります)、その延長としてユーザーによるプレイリスト(質の良いものほど多くの目に触れるように)なんかがあると、紹介しているコンテンツでユーザーが空き時間を消費してくれる可能性が高くなり、動線としての価値をサービスとして高めることができるかも知れません。
ある程度の時間を、ユーザーがその場を起点として過ごすという下地さえできあがれば、ネイティブ広告によるマネタイズという道も開けるでしょう。
広告というだけで毛嫌いする向きもありますが、このようなサービスの場合は、実際のマンガと記事の内容さえ面白ければ、ユーザーにとっても有益じゃないでしょうか。
ただし、気をつけなくてはならないのは、サービスを開いてまず目に入る場所は、提供する側が見せたい情報「ではなく」、ただひたすらにユーザーが思わずタップ/クリックしたくなる情報で満たすべきだというところです(もちろん詰め込むのではなく、パッと見て分かり易く整理した上で)。
とにかく、ユーザーが継続的に利用してくれることを第一に考えるべきでしょう。
日本のサービスは、そこが苦手なところばかりみたいなイメージがありますが、Pinga にはもう少しスタートアップっぽい身軽でスマートな印象を受けます。
サービスとして順調に育ってもらって、なにも Web マンガに限ったことではなく、電子版のマンガの新着情報全般を取りまとめるサイトに成長してくれると、個人的には大変に助かります。
いや、だって、情報がとっちらかり過ぎてて、新着情報を追うの大変なんですもん、いま。
電子書籍情報のハブとして、とりあえずここを見ておけば間違いないという場所があると、本当にとてもありがたいです。
などと、ひどく勝手なたわ言をダラダラと書き連ねてきましたが、内容的には当たり前のことばかりだったかも知れません。すみません。
ちなみに、ここで偉そうに述べている観点から言えば、このようにクソ長い記事はまるで論外なのでして、本当に申し訳ない。
見せ方について、もう少し
いまの電子出版に関して、見せ方に問題を感じていると、上で述べました。
現状の電子書籍のコミックは、紙の本のデータを流用してそのまま貼り付けているだけのような形式がほとんどですが、内容的に同じコンテンツを扱ってはいても、紙の出版と電子出版は全くの別物であり、スマホを含めてコンピューターを利用する媒体ならではの見せ方というものが存在する筈です。
この「見せ方」とは、なにも電子書籍の中身のレイアウトそのもののことだけを言っているのではなく、提供の仕方や環境まで含めたもっと大きな括りの話です。
誰もが、まだまだ手探り状態ですが、「とりま」的に既存のコンテンツを寄せ集めて無料化し、「ほれ、タダだぞ。読めよ」と投げ出すようなユーザーを舐め切ったやり方では、もはやアクセス数を稼ぐことすらままなりません(そんなものは、既にそこら中に溢れかえっており、簡単に埋もれてしまいます。だからこそ、上で紹介した Pinga のような情報ハブとなり得るサービスが求められている訳ですが)。
要するに、紙の出版物にとらわれない、電子媒体という特性を活かしたパッケージ化が、この先ますます必要になるのではないでしょうか。
そういった意味で、ある程度の成功を収めているのではないかと個人的に思っているのが「comico」です。
それ以外の、紙媒体での文脈をそのまま引き継いでいるような数々のサービスの中では、電子媒体ならではという部分も比較的意識されている「マンガブックス」との共通点や相違点を見ながら、少し語ってみましょう。
(ちなみに、2015 年時点では、もっとも利用されているマンガアプリが comico であり、次いでマンガボックスということのようです)
ひと味違う、comico の「見せ方」
まず、両者に共通しているのが、毎日更新されている、という点です。
良し悪しは別として、とにかく物凄い速さでコンテンツが消費されていくこの時代において、例えば週に1回だけ更新される無料マンガ連載のようなのんびりとしたサービスは、ユーザーに忘れられてしまいがちです。
数日も間が空いてしまうと、ユーザーは更新されたかどうか確認することを「思い出さなくてはならず」、ただでさえ空きリソースが少ないところに、そんな動きの少ない情報に意識を割くような余裕は、とても持ち続けることができません。
仮令、それが週2でも難しいでしょう。
毎日、常に新しいマンガが掲載されているということは、「とにかく、1日1回立ち上げれば良いのだ」という分かり易い気楽さがあり、さらに習慣化が可能なので、わざわざ「思い出す」必要性が薄れます。
既存の使い回しではない「新鮮な」コンテンツが、「毎日」公開され続けるというのは、いまの時代では思いの外重要だと考えます。
さて、どちらも連載陣のいずれかが毎日更新されている comico とマンガボックスですが、個人的には comico の見せ方を、より評価しています。
なぜなら、より分かり易いから。
comico では、月~日の曜日によって連載陣が(文字通り)仕切られており、「この連載は何曜日に更新される」ということがひと目で分かるよう意図的にレイアウトされています。
見た目にも分かり易いこのルールのお蔭で、読者は心待ちにしているお気に入りの連載の続きに、イチ早く簡単に触れることができるのです(公開曜日の深夜0時を回った時点ですぐに読めるようになるので、その直前からじりじりと待ち受ける「待機組」という言葉まで生まれているほどです)。
対して、マンガボックスの方は comico とは異なり、仕切りが紙媒体じみた第○号という一週間単位になっており、その中で最初は読めないようにグレーアウトされている各連載陣のロックが五月雨式に開放されていく方式なので、どの連載がいつ、何曜日に更新されるのかということが、いまいち分かり難くなっています(曜日が固定されているとしても、パッと見て分かり易い見せ方をしているとは言い難く、わざわざユーザーが意識して確認する必要があります)。
そして、comico の工夫はこれだけではありません。非常に気にかける層が一定数存在するランキングという制度を導入し、曜日毎のサムネイルの並び順を、(多少の例外はあれど)それに準じたものにしているのです。
この comico のランキングは、よくあるような、隔離された「ランキングページ」で(下手をするとサムネイルすら無く)素っ気なく並べられた無味乾燥な一覧とは、ひと味違います。
正確に言うと、comico にも独立したランキングページは存在するのですが、それを開くまでもなく、マンガを読む為に曜日毎のタブに移動した時点で、自然と人気順が目に入るようにデザインされているのです。
さらに、comico のランキングは、単純な閲覧数などから決定されている訳ではなく、いわゆる「いいね」ボタンを押すような、ユーザーの応援に拠る部分が大きいのです。
要するに、これは電子媒体に舞台を変えたジャンプシステムの実装です(不人気作品が打ち切られやすいという部分まで含めて)。
ランキングの類いに興味の無い人にはピンと来ないかも知れませんが、連載陣のサムネイルが綺麗にディスプレイされた、曜日毎の表紙(リスト)の「上の方」にお気に入りのマンガが表示されることは、非常にファン心理がくすぐられる名誉なのです(コメント欄をちょっと覗けば、「こんなに面白いのに、なんで下の方に表示されてるの」というような書き込みは、すぐにいくらでも見つけられます)。
コンピューター上であれば、このようにデータと連動した動的なコンテンツの見せ方が容易に可能である筈なのに、そして、コメント欄におけるランキングに関する言及の多さを見れば、このような見せ方は(ほぼ)リアルタイムで空気感を反映することが可能な電子媒体でこそ真価を発揮することが窺えるにも関わらず、これまで電子出版界隈で効果的に活用されたケースがあまり見当たらないのが不思議でなりません(単純にジャンプシステムじみた実装を取り入れれば良いと言っている訳ではなく、設計まで含めた「見せ方」の話です)。
いま、「コメント」について触れましたが、comico では各連載の「各話」に対して、コメントが「手軽に」つけられるようになっており、最新話を読んだ直後の盛り上がった気分のまま、その作品の「最新話について思う様に語り合ってよい専用の場」が提供されています(Twitter 等を利用したシステム外ではなく、システム内にです)。
このコミュニケーション要素が、ランキング制度と相まって、作品への「思い入れ」を強めることに一役買っているのは疑いようがありません。
正直なところ、掲載作品の「商業っぽさ」、語弊を恐れずに言い換えれば「完成度の高さ」は、圧倒的にマンガボックスの方が上でしょう。
ですが、ここで述べたような comico の他にはあまり見られない特性によって、comico 連載陣の良い意味でのアマチュアっぽさは、まるで贔屓のインディーズバンドを応援するように、(特に若年層の)読者ひとりひとりに「自分達が一緒になって育てているのだ」という感覚を抱きさせ易く、むしろ逆に効果的に働いているようにすら感じられます(「ベストチャレンジ」という名称で、まさしくインディーズそのものの作品支援も行われています)。
ともすれば、マンガの掲載方式が「縦スクロールに最適化されている」という目につく部分ばかりが注目されがちな comico ですが、実際はパッケージ全体として電子媒体――特にスマホやタブレット、そしてそれを操るユーザー行動に最適化されていることこそが、他のサービスと差別化できている要因であり、比較的成功を収めている理由であるのだと考えます。
そもそも、「縦スクロール」自体は、別に comico がはじめた訳ではなく、Web ブラウザ上での閲覧が前提のネットマンガの中には、早くから縦スクロールに最適化された表現はいくらでも見られた訳でして(制限があれば、作り手がその中で遊ぶのは当たり前のことです)、ランキングにしてもコメントにしても、ひとつひとつを個別に見れば、特別な新規性がある訳ではありません。
むしろ、どのサービスでも実装されているような、当たり前の機能の組み合わせです。
ですが、その組み合わせこそが大事なのです。
パッケージ全体として、電子媒体であることが有利に働くように適切に設計されていることが重要なのです。
その思想を損なわないように、とにかく見易く分かり易くインターフェースがデザインされていることも、大切なポイントです。
「なんだか分かり難い」「面倒臭い」などの曖昧な理由で、新規ユーザーが離脱してしまう状況を、極力排除しようとする気配りが感じられます。
また、これまでに公開された全ての話が無料で閲覧できる上に、アクセスし易いようにデザインされているので、興味を惹かれた新規ユーザーが最新話に追いつき易く、「前の話が分からないから入り難い」ということが(システム的には)ありません。
マンガボックスに代表されるように、紙媒体の出版社を基盤として展開されているサービスのほとんどが、最初の1~3話と最新の数話以外、一定期間が経つと非公開となり無料では読めなくなってしまうのと対照的です。
非公開部分は単行本を買ってね、ということで、出版社の方針としては分かり易いですけどね。
逆に comico の場合は、それが故にマネタイズが常に課題となったりする訳ですが。
このように、紙媒体でもそれなりの成功を収めているとはいえ、サービスとしての性質上、紙媒体での売上に頼るような運営をするとは思えませんし、また端から見ていても、色々と試行錯誤している様子は窺えます。
ともあれ、コンテンツを提供するプラットフォームにきちんと最適化された(少なくとも、そうしようとする意図が感じられる)サービスを comico が提供できているのは、運営会社の出身が紙媒体の出版社ではなく、ネット企業であるということと無関係ではないでしょう。
2017/03/01 追記:
追記する気分にならなかったので、しばらく放置状態でしたが、Comico が 2016 年の後半からチケット制を取り入れて、無料で全話読めるという訳にはいかなくなってしまいましたね。
ていうか、いま雨後の竹の子のように、同じようなチケット課金制コミックアプリが各出版社からぽこぽこリリースされているのですが、どれもまだ UI が洗練されてなくて読み難いです。何をするにも、いちいち確認し過ぎ。
課金第一じゃなくて、もうちょっと読む気になる操作性にしてくれないものか。
Comico は内作しているのか、どれも似たり寄ったりなフォーマットのメジャー出版社のアプリより独自性はあるのですが、やり方については失敗したのではないかという印象が否めません。
課金が悪いというつもりは、毛頭ないです。マネタイズはずっと課題だったでしょうし。
ただ、単純に使い難い。最新話を読もうとタップしただけで、レンタル券がどうのと全画面表示するのは、正直やり過ぎではなかったでしょうか。レンタル券がある内は、そのまま開いたらいいのに。申し訳ありませんが、すっかりアプリを起ち上げなくなってしまいました。
この辺りに関しては、いまはジャンプ+が頭ひとつ抜けて洗練されている印象です。
他のアプリは最新話の閲覧にすらチケットが必要になるのですが、ジャンプ+はまだ無料で最新の2、3週分は読めますし(今後どうなるか分かりませんが)、過去話を閲覧する為に課金する場合も、自分の意志でしている納得感が大きいです。
ジャンプ+は常に新しいことを試してますし、チケット課金制というものになりそうなフォーマットが出てきたからといって、いまさらのように乗っかってる他の雑誌や出版社とは、見ている先が違うなと感じます。
良い面ばかりでなく
と、ここまでは comico の良い面ばかりを見てきましたが、もちろんそうではない部分も存在します。
具体的に言うと、上では肯定的に紹介しているランキング制度やコメント機能というのは、主に若年層が入れ込みやすい要素でして、若さ故の思い込みの激しさから一旦火がついてしまうと際限なく突き進んでしまうような危うさがしばしば見受けられ、コメント欄でのまるで学校の教室を思わせる密な関係性への要求が、ある種の排他的な空気を醸成し――まぁ、つまり、平たく言うと、なんとゆーか、年長者がちょっと引いてしまうような「ついていけない感」を醸し出してしまうことがあるんですね。
これは大人が読むもんじゃない、と結論されてしまいかねない部分があると言いますか。
これってジツは、ネット全般についても言えることなのですが(出合い系やエロを除くと、大人がまともに楽しめる場所がほとんど無い)。
当の若者達にしてみれば望むところかも知れませんが、運営側はそうも言ってられいられない訳でして。
やはり問題を感じているのか、最近になってターゲットを大人に絞った「comico PLUS」という姉妹誌アプリがリリースされました。
一週間ほどで 100 万ダウンロードを達成したらしいので、まずは順調な滑り出しと言って良いと思いますが、リリース当初のしばらくは comico の読者が流れてきたことによる数字でしょうから、実際にどうなるかはこれからですね。
個人的には、こちらを成功させるのは相当に難しいと思っているので、comico 運営のお手並み拝見ですね!(何様)
安易にエロに頼るような方向には、いって欲しくないなぁ。
あ、そうそう、マンガボックスについて少しフォローしておくと、多言語対応の試みは本当に素晴らしいと思います(マンガボックスは、日本語以外に英語と中国語に対応しており、一部の掲載作品に限定されるものの、セリフはもちろん書き文字まで全てそれらの言語に翻訳されたものを表示できます)。
これは、大きな資本が後ろについていないと、なかなか実現できないことですよね。
まぁ、なんというか、この先もそれぞれのやり方で、切磋琢磨していけば良いのではないでしょうか。
急に日和ったことを言い出すようですが、comico のやり方にしても、別にあれが正解という訳ではなく、電子媒体ならではという見せ方は、まだまだ他にもある筈ですし、というか、ようやくはじまったばかりというところだと思いますので。
で、2015 年に読んだ本の紹介は?
いちおう、何冊か紹介しようと思っていたのですが、最早そういう空気ではなくなってしまったので、別の機会に譲ります。
おわりに
ということで、電子出版に関してぼんやり考えていたことを、愚痴愚痴と好き勝手にこぼしてみました。
気分を害されたかたがいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
言いたいことは、まだ多少残っているのですが(電子書籍における定額制の話とか、レスポンシブ対応についてとか、あと「Champion タップ!」とか)、特に comico に関しては、リリース直後から書こう書こうと思いつつ、ズルズルと今日まで文章化できていなかったので、ようやく書けてスッキリしました。
それにしても、くどいようですが、「見せ方」という面は、本当にどうにかして欲しいです。
(以下、各電子書籍ストアの新刊一覧に対する愚痴をダラダラと書き殴っていたのですが、微妙に論点がズレていたので削除しました。要するに、提供側の都合ばっかりでなく、実際に使う側が使い易いように作って欲しい、みたいなことです)
なんというか、餅は餅屋じゃないでですけど、冒頭で少し触れたように、電子出版って紙の出版社に任せる必要性は別に無かったなーと、いまさらのように思わないでもありません。
2000 年代の、まだ電子出版権なんて誰も大して気にも留めていなかった頃に、権利を持つ作者と直接契約して各電子書籍ストアに卸して売上を分配するような統一的な仕組みを作っておけば良かったんだなー、とか。
イメージ的には電子書籍版の J○SRAC のようなものですが(扱う権利は違うけど)、外から見て良く分からないどんぶり勘定で分配するのではなく、せっかくコンピューターを使ってるんですから、1冊単位でちゃんと集計して、卸値を7:3くらいで分配する感じで。もちろん、作者が7割です。
Amazon の direct publishing でも、条件次第ですが実際に印税 を 70% に設定できますし、後発の強みを最大限に活かして、間に余計なものを極力挟まないようにした上で、コンピューター間で全てが完結し物流を気にする必要のない利点を活かして、効率的にシステム化してしまえば、別に出来ない話じゃなかったんじゃないかなぁ。
ただ、少なくとも当面は、最初に原稿を形にするまでに手間をかけた出版社への分配も考慮する必要があるので、実際に7割は難しいかも知れませんが、例えば電子化に伴う作業も含めて全て一任する場合は、別のロイヤリティオプションを用意する、みたいな感じで、より柔軟で利用し易いサービスを提供することも不可能ではなかったでしょう。
逆に、作者自身の手で電子化することにより、より細部までこだわりを表現するようなことも出来た筈です。
実際にはじめていたら、出版社との付き合いという理由で、作家自身が二の足を踏むケースも多かったでしょうが、電子書籍の管理はそこに任せるのが当たり前というところまで持っていければ、電子書籍に関する印税がひと月あたりでせいぜい数千円というような現状よりは、余程マシにできたのではないかと。
また、統一的な管理が行えていたら、電子書籍にまつわる根本的にして最大の問題に関しても、解決の糸口を提示することができていたかも知れません。
なんの話をしているのかと言いますと、いまの電子書籍って「購入したデータに所有権は無く、ただ利用する権利を買ってるだけ」というような、ユーザーをナメ切った主張がまかり通っておりまして、要するに購入した電子書籍ストアが潰れたが最期、そこで買った本はもう読めなくなってしまうという有様なのです。
電子書籍ストアは、思いの外よく潰れるのに、出版業界全体としてこの問題をどうにかしようという動きは、残念ながら(少なくとも表面上は)ほとんど見受けられません。
つまり、ユーザーには泣き寝入りする以外の選択肢が与えられていない現状なのですが、電子書籍を統一的に管理する仕組みがあったならば、いざストアが潰れたとしても、そこで購入したことを証明可能なケースでは、ユーザーに引き続きデータを利用してもらえるような対応も行えたかも知れません。
そして、それができるのであれば、上の方でもチラッと愚痴りましたが、ストアを跨いだ電子書籍の蔵書管理の煩雑さからも、ユーザーを開放できたかも知れないなぁ、とか。
つまり、異なるストアで購入した電子書籍の情報を横断的に管理できるシステムを提供することも、決して不可能ではなかったでしょう(もちろん、それは各ストアへの単なる動線に限定すべきですが)。
そんな風に、新しいプラットフォーム、あたらしい場所では、そこの餅屋に任せた方が、色々話が早かったかもなぁ、と今更のように思わないでもありません。
いや、それこそ絵に描いた餅というか、そんなトントン拍子に話が上手く転がる訳がないとする意見は尤もですが。
理想通りマジメにやったら、全然儲からないでしょうしね(笑)
でも、なんだかんだで出版業界って知的で理屈が通じると思うので、利益分配がちゃんとできれば、実現可能性はゼロではなかったんじゃないかなー、と個人的には思います。
まぁ、もう皆が無関心だった時代はとっくに過ぎ去り、こんな感じで話が進んでるので、後の祭りなのですが。
先見性を持っていち早く行動を起こせる人が、きっと起業家たり得るんでしょうねぇ。私なんぞは、「こうすれば良かったなー(ぼへー)」と後から呑気に妄想するのがせいぜいです。
うーん、なんで、誰もやってくれなかったんですか(恨み節)
ちょいと話は変わりますが、一連の話題から、マンガ家の赤松さんが展開されている「マンガ図書館Z(旧Jコミ)」を脳裏に思い浮かべた方もいらっしゃるかも知れません。
あそこに任せておけばいいじゃん、的な。
ご存じない方は、お手数ですが直接サイトをご覧いただくとして、「(出版社と協力しつつ)ここに来れば、どんなマンガでも必ず読める(または新作を買える)」という理念を掲げているかの試みは、とても素晴らしく尊敬すべきであることに間違いはありません。
が、端から見る限りでは、赤松さん自身が少々当事者過ぎる面があるようにも思えます。
極端なことを言えば、赤松さんの気が変わったらそれまで、という印象を受けるというか(ご本人は強く否定されるでしょうが)。
加えて、「作家さんは何もしなくていいいですよ、全部任せてもらっていいですよ、お金も一切取りません」と言われても、「いやいや、適正であれば取るものは取っていいですから、継続性のある事業として運営してください」と恐縮してしまう作家さんも多いような気がします。
また、海賊版の問題についても、手頃な価格でアクセスが容易なサービスがきちんと正式に提供されていれば、お金を払う意志のあるユーザーは、ウィルス感染の危険があったりあちこちと探し回らねばならず手間がかかる海賊版よりも、正規のサービスを利用するケースが多いというのは、以下で紹介されているような論考を待つまでもなく自明に思えます(ハナから一切の代金を支払う意志のない層に関しては、全く別の話なので、ここでは省きます)。
まぁ、海賊版にさんざん悩まされてきた歴史があるので致し方無い部分はあると思うのですが、もう少しユーザーを信頼してもよろしいのではないかと。
そもそも、買いたくても電子版は提供すらされていないという状況がある訳でして、まずは買いたい本を買いたい時に買えるようにして、話はそれからだ、と言いますか。
終わりのひと言のつもりが、とりとめもなく長くなってしまいました。
いい加減で切り上げて、的外れな世迷言を垂れ流してしまった反省を、そろそろはじめるべきでしょう。
このように長ったらしい記事を、果たしてここまでスクロールしてくれた方がいらっしゃるのか分かりませんが、お気が向きましたら、また戯れ言にお付き合いください。